古過ぎた信念

12月 24th, 2012 No Comments »

■円環少女(6) 太陽がくだけるとき/長谷 敏司
http://www.kadokawa.co.jp/lnovel/bk_detail.php?pcd=200612000039

恐ろしいほどの傑作。その一言に尽きる。
(学生運動という)過去にしがみ付く者と今を生きる者の対比。絶えず変化する利害関係。仁vs王子護、仁vs東郷といったかつての師弟対決…などといっためまぐるしい群像劇が展開される上、1発の核を抑える筈だった話が “少なくとも” 2回は爆発していたなど本筋を捻る捻る。1発出すだけで大騒ぎなのに、そんな訳ないだろうとさも当然のように複数になってたあたりは戦慄を覚えましたね…最初から最期まで見所だらけで前巻をも越える壮絶な密度でございました。これ本当にラノベで良かったんだろうか。

また今巻ではいよいよエレオノールが際立って来た感があります。バベル編では絶大なる敵役として立ちはだかるも聖騎士団唯一の生き残りゆえに壮絶な仲間の最期を見せられ、グレン編では生き残ったがために協会に激しく長い尋問を強要され。廃人にこそならずとも何とか耐えてるといった体でストーリー展開上大きな活躍はなかったのですが、地下戦争編終わってみればもう立派に主人公格ですよ。作中のもうひとつの柱としてこれだけ確立するとはなあ。彼女が信じる道の先はこれからもひどく複雑で困難だろうけど、せめてその真っ直ぐな瞳が、彼女が信じたものを見届けるようであって欲しいとは願うところです。
一方本来の主人公・仁はブレ過ぎで、行動理由ですら後付けな有様。メイゼルを助けるためだけの決断がいつの間にか地下都市の子供も守り切る事になっている。「お前最初からそうじゃなかったろ」とは作中でも他人に突っ込まれていますね。でもまあやり抜くだけの覚悟があるので結果オーライってところでしょうか。ウチも割と理由後付け人間なので憎めないな。

この地下戦争編がもたらした人物関係の変化はあまりに大きく、もはや決して最初の様には戻らない。巻を追うごとに「どーすんだこの先」感が増すこのシリーズもまだまだ折り返し地点であります。後先考えない容赦無い展開はBEATLESSより凄いかも知れない。
続きは気になるけどまた来年に。


■スカイ・ワールド3/瀬尾 つかさ
http://www.fujimishobo.co.jp/sp/201208skyworld/

昨今よくあるネトゲものな上に展開が遅いので終わる前に打ち切られやしないか心配ですが、一応再版かかるくらいには出ているそうなので、何とかもう少しは続いてくれそうなそんなシリーズも3巻目。今回はサブクラス(FF11でいうところのサポジョブ)が2巻にて解禁された後のお話です。
前巻まではメインクラスしか存在せずクラス変更も不可、選択可能なメインクラスは全て設定として公開済とガチガチに枠が固められていたんですが、サブクラス解禁後はサブ専用クラスや1回しか発生しないクエストでの報酬として得られるクラス、またメイン・サブに同じクラスを設定する事も可能など、後からいくらでも広げる事が可能なシステムに様変わりしましたね。戦闘だけでなく能力行使全般において幅が出て来たのは良い変化だと思います。

それと今巻は互いが互いを信じる絆について、やっと主人公が向き合ってくれましたな。もともと人間不信なところがありそのせいで色々と問題が起きていて、今巻を機に人間的に成長したとは思うので次巻以降は危なくなっても違う行動を見せてくれると思いたいですね。一方ゲーム初心者だったかすみさんはもう放っておいても育っていくだけの素養が出来た感じがあります。言われなくても誰よりも早く動いてるよなあ。

…とそれっぽい感想を書いてみるも、絶賛するほど面白いかというとそれはないんですけどね。いえつまらなくはないですが。
では何故読んでるかというと、待ってるんです。ハヤカワで出した「約束の方舟」のような、もっとSFしていてボリュームにも制限がないような本を。あれ結構好きでSF界隈では評価も悪くなかったですし、と期待して応援する意味を込めて。
待ってますよ、いつまでも。

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さて今年も残すところあとわずか。
年賀状はこれからです…明日やろう(やらないフラグ満々)。

かつて此処にあった闇

12月 10th, 2012 No Comments »

■円環少女(5) 魔導師たちの迷宮/長谷 敏司
http://www.kadokawa.co.jp/lnovel/bk_detail.php?pcd=200612000038

いやー参った。現実世界に異世界住人が寄り添う魔法バトルものであるところの円環少女ですが、異世界住人を “こちら側” に寄せた動きをさせる=社会の爪弾き者同士が手を組む=核爆弾が飛び出して来るところまではともかく、60~70年代の学生運動の話まで直視して描かれると唸らざるを得ませんね。あとがきにて曰く「そこを避けるとむず痒い」とは言え、戦争の悲惨さを知らない最初の世代がモラトリアムと自由を履き違えた戦後日本の暗部を、心情的には避けたくなるのが普通だと思うのです。ましてやラノベ主要読者層は学生運動が盛んだった時期より後に生まれた世代なのですから、ぶっちゃけ描かなくたってそれほど気付かれない…のに。その真摯な姿勢が素晴らしい。見習いたい。

加えて何故日本在住の魔法使いを平定させておく専任係官が7人で済むのか、専任係官という存在がどれほど怖いものなのかというのがこれまでになく描かれた1冊でもあります。現実世界の技術を得て歪に加速させたオルガの実力は狂気そのもの。自ら大腿骨を骨折させるとか読んでいる方が痛い。更に、殺し合う運命を定められた刻印魔導師でありながら現実世界の人間に擁護されているイレギュラー・メイゼルの、異端ゆえに生み出す齟齬が遂に物語の転換期として表面化して来るのも今巻です。

で、こんだけ詰め込んで東京地下戦争編がまだ終わってないっていうね…。11月からようやく読み始めた円環少女が、こんなにも濃く凄まじいものだとは。年内はこの地下戦争が決着する6巻までに留めようかと思います。急いで読んでいい本じゃないわ。


■ソードアート・オンライン11 アリシゼーション・ターニング/川原 礫
http://dengekibunko.dengeki.com/newreleases/978-4-04-891157-3/

アリシゼーション編も3冊目。サブタイにもあるように物語の転換期ではありますが全体の半分にはまだまだです。そしてこの巻が個人的には一番読みたくない巻でもありました。川原作品における悪役はステレオタイプが多く、今回それが露骨に出て来る話だったので。
悪役に情が入ってしまうと中途半端になってしまうみたいな事を原作者のtwitterで見かけましたが、アインクラッド時代の茅場は(プレイヤーから見れば悪ではあっても)こんな書き割りみたいな人物像じゃなかった気がするんだけどなあ。ライオスとウンベールって、仕込みは長かったけど物語を転換させる以上の役になってないでしょうあれ。

神なき世界で神を騙る事や信仰という名の思考停止を逆手に取った支配構造についても、この段階でもうちょっと掘り下げておいて欲しかったところです。整合騎士の秘密に触れる手前で終わっちゃってたりする謎の切り方も中途半端なんですよ。ガッと400頁くらいにしてしまっても良かったのでは。今や電撃を代表する1000万部級の売れっ子作家、多少ページや刊行総数が増えたところで編集部は止めないでしょうし。
先は長いし大局を優先せねばならないとは言え、web版からの書き直しなのだからやりきって欲しかったな感を一番強く感じた巻でした。アインクラッドはweb→文庫化→プログレッシブ化で再リメイクするくらいの執念を見せているだけに、どうもなーアンバランスなんだよなー。いやまあ面白いには違いないんですが、もったいない。

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明日は山本 弘氏の新刊「UFOはもう来ない」が発売予定。すぐにでも読みたいものの、ボリューム的に今から年内までに納得の行く消化速度で行けるかちょっとアヤしいので来年持ち越しかなー…。12月は仕事も慌ただしいですからね。
あと3週間、体調には気をつけて乗り越えたいものです。

追いつけない “いつか” を想う、足元の日々

12月 2nd, 2012 No Comments »

■妖精作戦PART IV ラスト・レター/笹本 祐一
http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488741044(東京創元社再新装版)
http://www.j-comi.jp/book/comic/4441(ソノラマ文庫新装版 Jコミ配信版)

最終巻が来てしまいました。ラスト6Pで衝撃とトラウマを中高生読者に与えたアレです。

妖精作戦の衝撃というのは80年代を自分の目で見たか否か、多感な時期に読んだか否かで大きく印象が変わります。1回目の新装版が出た1994年ならともかく、物心ついた頃には平成が終わっていた世代が20代も後半になろうかという27年目の再新装版では、大きな声で薦めるのはちょっと厳しい。飛ばし過ぎの疾走感と目立つ粗という欠点を、(当時まだ珍しかったであろう)オタク的ノリと高校生の視点が補って余りある構成でしたからね。昔の事なんかわからない世代が読んだところで、こんなの小説大賞に応募したら1次落ちじゃないの言われても否定は出来ません。しかしこれが無ければ小川一水先生が今日の日本SFの最前線に立っていなかったかも知れないし、ハルヒに登場する長門有希の名前が長門有希ではなかったも知れないのです。歴史を変えたと謳う再新装版のキャッチコピーも決して誇張ではない。

何故ラストがああでなければいけなかったか。
ウチ個人としての解釈ですが、この作品に登場する高校生どもは万能過ぎたんですよ。高校生程度が持ちうるオタク知識と行動力と運にしては結果が出来すぎで、女の子の連れ去られた先が例え米軍基地であろうとも原子力潜水艦の中であろうとも、狭い通路をミサイルで追い掛けられようとも、果ては高度衛星軌道上の機動要塞から月にまで行く事になろうとも、約束を守り彼らは必ず助け出して来ました。その不可能を可能にして行く様は、子供特有の万能感が残りつつも大人に近い身体能力を兼ね備えた高校生だから出来たこと。
何でも可能にしてしまう彼らだからこそ、そうではない現実を突き付けて終わりにしないと物語世界の中の彼らは成長せず、まるでビューティフルドリーマーのように「先へ進まない、見かけだけの幸せの円環」に入り込んだままになる。読んだ当時は理解出来なかったですけどね。登場人物より年下だった事もにありウチにとって彼らは輝きそのものだったから、その光がくすんでしまうような様は見たくなくて受け入れられなかった。そこを受け入れられるようになるのは自分もまた大人になってからだったように思います。

妖精作戦を読んで笹本作品を買い続けると決め、それがなければSFメインの読書スタイルもありませんでした。物語曲線を落として終わるバッドエンドより上向きで終わる方を好むのも、やはり妖精作戦の影響による所が大きい。自分の本読みの原点がここだった。多感な頃に読めて良かったなあと、27年目の再新装版完結に思うのでした。


■円環少女(4) よるべなき鉄槌/長谷 敏司
http://www.kadokawa.co.jp/lnovel/bk_detail.php?pcd=200601000044

東京地下戦争編の1冊目。作中が夏休みという事もあって、魔法バトルものである事を忘れてしまうかのようなゆったりとした時間の流れ。近所の謎スポット探検なんかもしちゃいます。おかげで魔法使いではない寒川紀子や、元々魔法使いじゃなかったけど目覚めてしまった倉本きずなの本来の一面がクローズアップされ登場人物の描写に深みが増していますネ。バトル一辺倒じゃそっち方面しかわからないし、地球の普通の人が魔法を観測すると魔法を破壊してしまう以上、こうでもないと寒川さんの入り込む余地はなかなかない。結構好きな巻です。でも後半はいつも通り仕掛けが仕掛けを内包する壮絶な魔法の応酬戦に突入してしまうんですが。あげく核爆弾という魔法に依存しない超危険物まで飛び出して来た。

「あなたのための物語」と円環少女は並行して執筆されており、その影響がこちらにも出始めているのも見逃せません。「あなたの~」の1章が円環少女3巻と4巻の間だったんだっけ。王子護の言う「人間は死に際に自分自身である事すら出来ない」なんかは殆どそのまま「あなたの~」の冒頭と同じ。リアルタイムで円環少女を読んでいたら当時は「あなたの~」がまだ世には出ていませんでしたから、今だからこそわかる楽しみ方ですな。

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来年の読書ペースをどうしようかとそろそろ考え始める時期です。
予定では去年と今年は同じようなペースになるはずではなく、予定が丸1年ズレ込んでいる事に焦っています。自分の中では来年も今年と同じ引っ張り方はしないつもりですが、去年もそう言った気がするんよなあ…。読むにしても再読の比率が上がるかも知れませんね。読んで後ろに流しているだけでは、読んでいないのと何も変わりがないので。