人の不幸を、生まれる前に消し去るために。

9月 26th, 2012 No Comments »

■マージナル・オペレーション2/芝村 裕吏
http://sai-zen-sen.jp/fictions/marginaloperation/

三十路ニートが金目当てに民間軍事会社へ再就職し、海外で才能を開花させた話の続き。
今巻、これと言って書く感想がありません。1巻は限りなく底辺からこれ以上無い消極的な理由で進み始める割に後半で戦争とそこに生きる人々の話がきっちり描かれるそのスピード感と落差が魅力だったんだけど、今巻は舞台が戦争のない日本となったせいもあって展開が淡白…というかほとんど動いてないですねこれ。観光して一悶着あって日本から次の場所へ、ってそれだけだもんなあ。全5巻くらいを予定しているそうなので中盤以降への “溜め” と割り切らないと、単巻ではちょっと評価しかねます。その分キャラクタの掘り下げや伏線の配置らしきものは進んでるんだけど。ジブリールかわいいよジブリール。

出来ればアラタと、アラタが守ろうとする子供らの未来は穏やかなもの・血を流さないものであって欲しいと願うのですが、恐らくはそういう展開にはならなさそう。というのもこのお話、ブラウザゲーム「ガンブラッドデイズ」と世界観が繋がっているようなんですね。GBDはマジオペより未来の話であっちでどうなっているかと言うと、日本は経済破綻を起こし軍隊が復活。混乱の果てに日本は再び鎖国し内戦状態に突入している。裏切られる未来・立ち込める暗雲・蜘蛛の糸よりも細い希望とはいかにも芝村イズムと言えますが、登場する子供らがかわいいだけになあ。マジオペからGBDに繋がった後も何とか幸せになれんものかなあ。

次巻は比較的早く2013年2月とのこと。予告からして大きな動きがありそうです。


■去年はいい年になるだろう<上・下>/山本 弘
http://www.php.co.jp/books/detail.php?isbn=978-4-569-67887-0
http://www.php.co.jp/books/detail.php?isbn=978-4-569-67888-7

未来からやって来たアンドロイド「ガーディアン」が歴史を改変していく様を「著者を主人公にした」私小説スタイルSF。単行本は2年前に発売され、今回はその文庫本化。ただ今作における2年は非常に大きい意味があって、良い方向にも悪い方向にも印象を変える事となってしまいました。

まず良い方向は星雲賞受賞。だってね、2年前に作中で「星雲賞か。いいなあ…」って言ってたらほんとにこの本で星雲賞取っちゃったんですよ。で、文庫本化したら帯には「星雲賞受賞作!」って書かれてて、でも中読むと変わってないので「星雲賞か。いいなあ…」ってやっぱり言ってる。星雲賞っていわゆるファン投票なので、面白がって選ばれた可能性は大いにあるかも知れませんが。これは2年前にはなかった楽しみ方。
一方の悪い方向は2011.03.11の大震災。星雲賞と逆で、こちらは作中で一切触れられていない事が問題です。なぜなら

・ガーディアンは2330年を起点とし1年遡り10年滞在した後、1年遡るを繰り返している
・歴史が変わっても地震だけは変わらず起き、ガーディアンは21世紀から300年間に起きる全ての地震を人類に伝えている
・ガーディアンは毎年同じ日にタイムワープをして来る訳でなく(歴史改変前の)その年に起きた象徴的な出来事に合わせている

設定的に、ガーディアンは2011年に日本で起きた大地震を改変前の歴史としても知っているし、作品世界は2001年なので繰り返されるタイムワープの中で実際に見てもいるはず。しかし作中、世界各地で実際に起きた地震に触れながら2011年の大震災に関する記述は文庫本化に際しても一切ない。2年前には無かった事なので作中に言及がないのは当然でしょう。けど2年後再度刊行する機会があるにも関わらず、ここをスルーしてしまっているせいで作品の説得力が下がってしまった気がします。
たった一文加筆するだけでも、この不自然はほとんど解消出来たのではないかと思うんだけどなあ。

体裁が体裁なので著者の考えや人となりがオブラートに包まれる事なくかなりストレートに描かれるため読む人は選ぶ本です。氏の著作が好きだからと言ってこれが楽しく読めるかというとそれは全くの別問題。氏の著作に今から手をつけるんであれば、これはかなり後半が良いですね。

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9月はあと1冊、ドラフィル2を予定。10月はSAOプログレッシブ1と長谷敏司氏の新刊「BEATLESS」を予定しています。
新刊だけで乗り越せた9月は、ウチ的にはかなり恵まれた月だったかも。

虹の観察を終えて

9月 18th, 2012 No Comments »



トライアミューズメントタワー年に数回の “災” 典、裏塔劇のストII’レインボー大会にてまさかの準優勝を頂いてしまいました。
今回、大会前の野試合からして本当にレベルが高くてですね…。しかも参加者数は裏塔劇史上最高の48人(満員)。運に恵まれた部分は非常に大きかったと思います。事実、決勝の同キャラ対戦ではストレート負けを喫し、場数の足りなさを思い知らされたところです。コマミスしてるようじゃちょっと…(汗

自分の話はさておき全体を見ると、かつて一強と言われたガイルが進化するキャラ対により決勝に残る事さえ出来なかったのが印象的でしたね。ただ、ダイヤグラムがひっくり返る程の事であったかというとそれはなくて、バルログvsガイルは変わらずガイル微有利なんじゃないかなあ…。読み負けると即終了するガイル戦は心臓に悪い。これからも精進しないといけません。

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毎度レインボーになるとust視聴者数が急激に増え、今回遂に瞬間最多視聴者数が4600人にもなった裏塔劇ですけども、レインボーだけが裏塔劇ではありません。ニコ動で「裏塔劇」と検索して頂ければ、過去に様々なゲームが種目に選ばれていること、プレイした事がなくても初見で楽しめそうなゲームも結構選ばれている事がわかるかと思います。

他の種目も凄く盛り上がってるんですよ。今回で言うとチョコベーダー決勝でまさかの人類完全卒業&限界突破クエスト達成だとか、チェンジエアブレードに46人も参加して1200人も見ているだとか。
皆さん勝っても負けてもいい顔をしています。アットホームな雰囲気で「参加する事に意義がある」を地で行く大会ですので、興味があれば是非参加もしてみて下さい。

大会中、現地またはtwitterにて声援・祝福をしてくれた皆さん本当にありがとうございました。またイベントの開催担当HK氏を始め、関係者・実況担当の方々も3日間本当にお疲れ様でした。

無色透明の、希望の乱数

9月 10th, 2012 No Comments »

■スワロウテイル序章/人工処女受胎/籘真 千歳
http://www.hayakawa-online.co.jp/product/books/21082.html

今まで以上に素敵なカバー。イラストが背から裏までまわっています。
SFマガジン及び公式webにて2011年2月から約8ヶ月間隔で掲載されていた中篇に、書き下ろしを加えてのシリーズ3作目。タイトルの通りシリーズ中時系列的には最も古く、まだ揚羽が学生だった頃のお話です。学生の頃から「人に害をなす人工妖精を殺す」他の人工妖精に出来ない仕事をしていた彼女は、学園周辺でたびたび起きる不可解な事件の裏に1人の女性の存在を見出します。

1作目こそ「全方位に要素を詰め込めようとしすぎでは」と感じたこのシリーズも、作を追う毎に配分が確実に良くなっていますネ。唯一「蝶と金貨とビフォアレントの雪割草」が文量に対して仕掛けが見合わず消化不良を起こしているくらい。それ以外は中篇単位で見ても配分に不満を感じる事はありませんでしたし、3篇までの流れを受けて締めくくりとして綴られる「蝶と鉄の華と聖体拝受のハイドレインジア」への持って行き方も上手いなあと。
また今作はより一層美しくなった情景描写に加え、キャラの華やかさにも溢れている。元々ラノベ寄りなキャラ作りと掛け合いが多い氏の作風に全寮制女学校という舞台は非常にマッチしていて、まあなんと賑やかなこと。この美しさと華やかさの両立・コントラストについては、特に「蝶と夕桜とラウダーデのセミラミス」が秀逸。
今までの弱点を補強し、エンタメ(コミカル)方面という今までにない一面からの作品世界の描写も成功させながら、いつもの “えぐさ” や人工生命の心の在り方について濃く緻密に描く姿勢も揺るがない。かつてない完成度、シリーズ屈指の面白さと言い切れましょう。

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しかしあれだけの情景描写を書き伝える事が出来るようになるには、普段どれだけ綺麗さや優雅さのあるものに触れていたら成し得るのだろうか。ウチがいかに普段綺麗・優雅なものを見ていないか、見ても感じていないのかを痛感させられますね…。個人的に今最も期待している作家さんで、今後スワロウテイルが続くにしても別シリーズを始めるにしても、どこまで進化していくのか追い掛けていきたい。


サイン会も整理番号1番ゲットしましたし。うん、そのくらい好きなんだ。
今までサイン入り本の販売はあっても、サイン会は初めてなんじゃないかな。22日が楽しみです。

その一言を伝えるために

9月 5th, 2012 No Comments »

■屍者の帝国/伊藤 計劃×円城 塔
http://www.kawade.co.jp/empire/
▼芥川賞・円城塔「伊藤計劃の遺した物語を継ぐ」
http://news.nicovideo.jp/watch/nw179903

伊藤計劃が他界して早3年。
生命と社会の歯車から外れて年月が経つほど時を歩む者とそうでない者の差はかけ離れたものとなるだけに、芥川賞受賞記者会見の席で伊藤計劃の名が出た時は本当に驚きました。かけ離れてなんかいない、この3年円城塔はずっと伊藤計劃と共に旅をしていたんだと。

特設サイトは本を読む前に見た方がいいかも。未完の物語を代わりに完結させたというのは建前で、実のところ遺稿から始まるありがとうを伝えるためのプライベート物語なんですねこれ。だから1つの物語で3つのテイストが混在している。プロローグは伊藤氏、第一章~第三章が円城氏の作風、そしてエピローグが活字以外で見せる普段の円城氏。伊藤氏のテイストを期待して読むと肩透かしを食らうと思います。あくまでこれは円城氏の本なのです。作風も敢えて擦り寄せていない。
でも円城氏の本を読んだ事がなくても、伊藤氏の本を少しでも読んだ事があるのならぜひこの本は読んで欲しいなあ。円城氏が感謝の気持ちを述べるためにどれだけ敬意を払い、3年半もかけて慎重に慎重に言葉を書き重ねて来たか。その跡がそこかしこに見て取れるのですよ。男の友情に満ち溢れている。エピローグではそれが爆発する。

物語世界の “外の事情” まで含めれば、間違いなく今年のベスト。
1回ではとても読み込みきれる密度ではないので、折を見て何度も読んでいきたい。


■スカイ・ワールド2/瀬尾 つかさ
http://www.fujimishobo.co.jp/sp/201208skyworld/

かすみさんがMMO初心者を脱し一人前の冒険者として活躍出来るようになったところからスタートする2巻。いよいよ冒険本番でテンポは良くなっています。良いんですが、今回は戦闘シーンにおけるテーマが敵対心制御であるためか、前衛の一挙手一投足がみっちり描かれてる訳じゃなくてサラーッと流れてしまっている印象が…いや確かに支援や後衛視点だとこういう見え方(前衛の攻撃より他の事が重要という意)になるし、多対多での敵対心管理ってすげー面白いんだけど、そういう概念のあるゲームやった事ないとわかりづらいんじゃないだろうか…。

後半はそれなりに緊張感のある展開で違う面白さがあるものの、ちょっと設定が強引過ぎる気もするかなー。FF11で言うサポジョブ取るのにこれは仰々しすぎないか。この仕込みが続刊で生かされれば良いのですが、まだ舞台は下層でゲームから脱出出来る最上層には遥か遠く。設定が活かされぬまま終わったりしそうで怖いなあ。一応3巻出るのは確実っぽいですけども。
あとユーカリアさんの性格が残念すぎてわろた。リアルにあんな人がいたら是非お友達になりたいですね!

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今月は比較的新刊に恵まれている模様。
ではまた次回。