ほんの僅かな感傷でさえも、時の流れの内に失う事のないように。

7月 30th, 2012 No Comments »

■ネバー×エンド×ロール―巡る未来の記憶/本田 壱成
http://mwbunko.com/product/2012/06_03_isbn.html

震災に見舞われた札幌、復興のさなか札幌を取り囲むように建ち始めた謎の巨大な壁。その中で暮らす中学生らがある日出会ったのは、未来から過去へと遡り続ける能力を持った女の子で…? といった導入で始まるタイムトラベルもの。

“話が上滑りしている” タイプの物語ですね…。登場人物らの抱えて来た生き様が全然描写されていないから行動原理が読み手に伝わらず、発言内容に説得力が感じられない。作中、時代は大きく3つに分かれているけど「人は時と共に容易く変化してしまう」と言いながら、変化したその前後だけで間の経緯が無い。飛行機で壁の向こうを目指す中学生時代の話にしても、作者はセスナのような小さい飛行機に乗った事がないんじゃないかしら。この、序盤から中盤にかけての薄さがキツい。

「はぁ、またこのタイプか…」と思いつつ3章に至ると、ある登場人物の心理描写がみっちり描かれ始めそれなりに面白くなり「お、行けるか?」と期待させてくれるのです…が、それも束の間。まさか終章で台無しな終了を迎えるとは悪い意味で想定外。えー、どうしてそっち行っちゃうの。
いやあのね、時間跳躍が出来る理由について納得出来る回答を用意している事については印象良いんですよ。それはそれで気になる事ですから(それすら放り投げてるケースも多い)。ただこの物語の場合、時間遡行の仕組み以上に気になるのは「時の流浪者になる覚悟を決めたこよみが、誰に出会い歴史を変えようと決意したか」ではないですかね…。そこがまるまる無いんですよ。数字が1から4まであったら、その1と3だけ描いているのがこの物語なんです。肝心な所がすっぽ抜けててちょっと読み手をないがしろにしているんじゃないのかな。所々グッと来る文言があっただけに、残念だなあ。

章が変わると描写が薄いせいで場面が飛びすぎる印象を受けるため、断章という形で人の心が変わる経緯を挟むべきだったのがまずひとつ。終章は上に示した通り、こよみが成し遂げようとしたその一旦の結末をまず見届け、 “世界の仕組み” は最後に数ページ程度で良かった。もうちょっと、人間の方を大切にして欲しかったですね。

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しかしタイムトラベルものでアタリを見つけるのは難しいですなあ。いや決して無くはないんだが(まどマギとか)、期待を外れて残念と感じる事の方がが多いかな…。

自分が何処に居るかを知るために

7月 23rd, 2012 No Comments »

■星のパイロット/笹本 祐一
http://publications.asahi.com/ecs/detail/?item_id=14026(朝日ノベルス新装版)
http://www.j-comi.jp/book/comic/43031(ソノラマ文庫版 Jコミ配信版)

ソノラマ文庫時代、最後に開始されたシリーズが復刊。オリジナルの刊行は1997年3月。
当時ねえ…著者が趣味全開で始めたと聞いてイヤな予感しかしなかったのですよ。同じく趣味全開で刊行した「バーンストーマー 大西洋の亡霊」は1巻出したっきりで続きませんでしたし。またちょうどこの頃、従来の展開重視キャラ突っ走り(今で言うラノベ)路線からガジェット(特に航空宇宙)描写重視へ作風が大きく変わり始めた時期でもありました。よく言えば情景描写が細かく、悪く言えば軽快なテンポが失われてしまって、往年の読者がついて行けるのかしら的な意味でも色々不安を覚えたものです。結果はと言うと全6冊を刊行、星雲賞長編部門賞も受賞するほどに好評を博す事になったのですが。

あらすじは、民間レベルで有人宇宙開発が出来るようになった近未来、アメリカはとある宇宙空港に拠点を置く零細企業のもとへ雇われ宇宙飛行士として日本人女性・羽山美紀がやって来るところから始まります。しかし腕は確かなものの所々で出すボロに経歴を怪しまれ…かと言って宇宙でのミッションも迫っておりといった内容で、要はお仕事小説ですね。


しかし…読みづらい。これは理由がハッキリしていて、専門用語バリバリで会話をした後に読者向けの解説が入るから、そしてその程度がこの作品は特に顕著なせいなのですな。登場人物が皆プロなせいで読者に近しい立場の人間が居ない。またプロがゆえに迷わないので1巻は特に心理描写が薄く、全体的にかなーり淡々と進行しています。心理描写があるといったら美紀が宇宙に出る事へこだわる理由くらいしかない。
今回復刊にあたってだいぶ加筆修正されているんですけども、読みづらさの印象が大きく変わる事はなかったなあ。出来がどうこうじゃなくて単純に向き不向きの問題だと思いますけどね。ただちょっとクセが強いだけで。

そういうわけで、ミニスカ宇宙海賊(=モーレツ宇宙海賊)で笹本作品を知った方も多かろうと思いますが、次に読む作品として素直にはお勧めしかねるところです。似たような作品なら「星のダンスをみにおいで」、直近の復刊なら「妖精作戦」、SF要素薄いのがいいなら「小娘オーバードライブ」辺りから攻めるのが吉かと。

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まあ個人的な向き不向きはさておき、これで20世紀に刊行された笹本作品が全て復刊した事になります(「スターダストシティ」のみ電子書籍)。5年前にソノラマが廃業して以来一部入手困難な時期もありましたが、こうして再び入手のめどが概ね立ったのは喜ばしい事ですね。
あとは「ほしからきたもの。」(一応21世紀発売)と「天使の非常手段RIO」(復刊したけど20世紀末だった)くらいかなあ入手厳しいの。これらはどうするんだろうか。あ、前者復刊するなら表紙・挿絵は再びさめだ先生でお願いしますね。

努力しないで生きる

7月 15th, 2012 No Comments »

■ふわふわの泉/野尻 抱介
http://www.hayakawa-online.co.jp/product/books/21074.html

絶版により入手困難となっていた10年ちょい前の作品がハヤカワにて復刊。
傑作と評される今作ですが、流石に今読むと少し厳しいかな…と率直な感想。ムラがあるというか、例えば登場する協力者が泉の母さんや昶のお爺ちゃんは出て来るの最初だけでフェードアウトしたまま復活しませんし、かと思えば途中で南国の大統領が立地の都合からいきなり登場して後半のサブ主役を張っていたりする。あんまり綿密に各章が連携してはいないんです。
刹那的に生きる若き女子が次から次へと人を置きざりにして突き進むのもそれはそれでリアルなので、泉の生き様を描くという一点だけなら間違ってはいないかも知れません。が、物語として “生きているけど死んでいる” 人間が次々出てしまうと、やはり説得力に欠ける飛躍になってしまうんじゃないかなあと思うわけです。
10年後に刊行された「南極点のピアピア動画」も “最終的に宇宙を目指す” アプローチこそ同じであるものの登場人物の使いっぱなしは極力減らされ、唐突な所からいきなり登場もしない。”納得の出来る飛躍感” は、やはり作を重ねる毎に洗練されていると思うのであります。

…あれ、ふわふわの感想じゃなくてピアピアを薦める話になってないかこれ。いや、ふわふわが酷いとは決して申しません。後の作品を知っているので差が気になっているだけです。全く野尻作品に触れていなければ気にならない程度かと思います。

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今月は「華氏451度」が再読済ですが、次に読む本の都合でその話はまた後日。

5000倍加速の重み

7月 10th, 2012 No Comments »

■ソードアート・オンライン10 アリシゼーション・ランニング/川原 礫
http://dengekibunko.dengeki.com/newreleases/978-4-04-886697-2/

大部分書き下ろしとなった最新刊は、前半が丸々アリシゼーション計画の状況説明、後半でキリトくん大活躍のターンという構成。SAOで培ったソードスキルを活用出来る優位があってもなお、AIたちが380年に渡って積み重ねて来た歴史の重みが物語を簡単には進ませてくれません。いくら筋金入りのゲーマー・キリトくんであってもルールを覆すご都合主義は不可能で、ひとつひとつ目標に向かって着実に進むしかない。
ボトムアップ型AIがどうだの量子脳理論がどうだのといったSF成分も増して来て、一方で安定安心のアクション描写も満載の素晴らしい一冊。しかしまだ前半戦なのです。

10巻発売と同じタイミングでアニメも遂に放映開始です。
2話で早くも本編を外れ、短編「星なき夜のアリア」が挿入されるのは予告通り。ただアインクラッドに関する短編を全部入れてるとフェアリィダンス編が尺不足になってしまうため、どこでバランスを取るかが気になるところ。半年間、目が離せませんな。

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ところで、AWとSAOが一段落したらハヤカワで書いたりしませんかね川原先生。
元々の文体がラノベっぽくないですし。それほど奇をてらった物語を書く方ではないけれど、これだけ魅力的なキャラを繰り出せる上でガチSFなんぞ書いた日には素晴らしい傑作が出来上がるんじゃなかろうかと思うのですが。現在日本SFの第一線で活躍している作家さんにもラノベ出身の方かなりいらっしゃいますしね。でも人気作家になり過ぎて電撃が離さないかなあ。

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アニメ化ついでに、6月で終了したモーレツ宇宙海賊にも触れておきます。

ラスト5話のオリジナル展開で全部が台無しという大変残念な終わり方でした。
ミニスカ宇宙海賊に限らず笹本作品は、基本的に登場キャラを無闇矢鱈に増やさないんです。とりあえずアテを見込んで配置して、料理しながら味付け考えてみて、頃合いを見計らって一気に盛り立てる。その巧さが魅力だとウチは思っています。原作に忠実に進行している間はアニメもそれを踏襲していました。
それがラスト5話で原作を離れた途端に次から次へと新キャラが登場、状況説明も大雑把になって軸がブレた。前後で作風がまるで異なり、笹本作品のアニメ化ではない何かになっています。
過ちの要因として最も大きいのは、茉莉香を進級させた事。進級するとリン部長が卒業して「話のわかるヤツ」が自動的に1人減る。中等課程でハッカー容疑で逮捕・前科持ちしてるような有用な駒をですよ、わざわざ捨ててるんです。チートじみた牽引役は他にもいるんだけれど、タイヤ1個減ったら運転制御は当然難しくなるわけで…。

今回アニメ化に際して構成や展開に原作者は干渉していないそうで(というかお任せで)、立ち会い・監修の元構成が行われていたのなら絶対にこうはならなかったでしょう。やっぱりメディアを越えて作品展開する時は、原作者は立ち会った方がいいと思うのです。特性が異なる先へ「移植」をする時、失ってはいけない本質を最もわかっているのは原作者なんですから。
ちなみに原作は8巻まで至ってもなお、リン部長は卒業していません。

劇場版制作も予告されてますけど…終盤のノリを劇場でやられても正直観たくないので「笹本作品が遂に劇場化!」とは素直に喜べませんね。
既に原作から大きく外れて修正は厳しく、原作者がここから脚本書くにしても一筋縄ではいかないだろうしで。どうすんだろう…。