言葉よりも、雄弁に。

3月 31st, 2012 No Comments »

■ドラフィル! 竜ヶ坂商店街オーケストラの英雄/美奈川 護
http://mwbunko.com/product/2012/03_01_isbn.html

絵画の話、バイク便で仕事するOLの話と来て新シリーズはオーケストラの話に。いずれも著者の極めて身近なネタから起こしているものかと思われますが、えらく傾向がハイソですね。ウチが自分の部屋に絵画を(レプリカであっても)飾るとか想像も出来ないし、オーケストラを聴くというより電子音楽が好きですし。そういやなんか似たような傾向にある人を知ってるような気がしなくもないな。

横道は置いといて、非常に読み込みやすい氏の文体は今回も健在です。1冊内の起承転結、1章内での起承転結がとても綺麗で「ああここがフックになるな」というのも見えやすい形で置いている。見えやすいからそれを逆手に取られた時もわかりやすく、良い意味でスラスラ読んでいけますね。勢いで書かないでプロットをしっかり組んでから書き始める方なんだろうなー。
話の流れとして、まるで身内のような小さな社会に事情を知らない主人公が突っ込んで、過去を語ろうとしないその小さな社会を主人公が切り開く…という図式は特急便ガールと概ね変わらず。前作が楽しく読めたのなら今回もきっと楽しく読めるのではないでしょうか。前作みたいな飛び道具(テレポート)はないけど。
年度を締めくくるに非常に良い1冊でございました。ぜひ2巻を出して欲しいです。
合わせて見ておきたいこちらもリンク。

▼『ドラフィル!竜ヶ坂商店街オーケストラの英雄』登場楽曲集
http://ameblo.jp/nejiuna/entry-11203450359.html
▼web書き下ろし小説 第2回 『間奏曲 竜神様にお願いを W・A・モーツァルト:きらきら星変奏曲 ハ長調K.265』/美奈川 護
http://mwbunko.com/nw_novels/

日頃は音楽を切って読書しているけれど、これは例外だなー。
シーンに合わせて再生ボタンをポチリとすると良いです。非常に。

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さて2011年度もまもなく終わり。昨年4月からの読書数は80冊。やっぱりこのくらいのペースがウチにとっては適切な感じ。さて、今年度に発売された本(読んだ本ではなく)で印象に残ったもの5つは…?

■詩羽のいる街/山本 弘
http://www.kadokawa.co.jp/bunko/bk_detail.php?pcd=201106000067
■南極点のピアピア動画/野尻 抱介
http://www.hayakawa-online.co.jp/product/books/21058.html
■ソードアート・オンライン7 マザーズロザリオ/川原 礫
http://dengekibunko.dengeki.com/newreleases/978-4-04-870431-1/
■天冥の標IV 機械じかけの子息たち/小川 一水
http://www.hayakawa-online.co.jp/product/books/21033.html
■妖精作戦PART II ハレーション・ゴースト/笹本 祐一
http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488741020

シリーズでなく新装ものでもないのが1つしかないな。上2つは幅広くお勧めしたい。
来年度も素敵な本に巡り会えますように。

二度とやってこない祭だってある

3月 26th, 2012 No Comments »

■妖精作戦PART III カーニバル・ナイト/笹本 祐一
http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488741037(東京創元社再新装版)
http://www.j-comi.jp/book/comic/4441(ソノラマ文庫新装版 Jコミ配信版)

小牧ノブの居る日常は日常ではなかった。そもそもそうであったはずなのに、いつしか非日常が日常になっていた。
余りにも楽し過ぎた星南高校文化祭を終え、1巻終了後に恋仲となったノブと榊のいちゃつきもすっかり見慣れて「これがずっと続けばいいのに」という読者の気持ちをよそに物語は本来の路線、小牧ノブ奪回作戦へと戻ります。とは言え3巻はまだまだ平和な方ですけども。この時点で4巻の結末を初見で想像出来る人はそうそうおるまいて。
戦闘機や戦車が暴れまわる市街戦は(あとがきを見るに現地取材をするようになっていたということで)より一層の迫力を増していますネ。この路線がARIEL第2話の新宿大破壊に繋がる、初期笹本作品の十八番と言えましょう。
解説はハルヒでおなじみの谷川先生。今回の再々新装版解説は早々たる面々が名を連ねておりますなー。そして皆さん揃って妖精作戦という作品をアツく語りすぎている。さて衝撃の最終巻「ラスト・レター」の解説は一体誰になるのであろうか。

■シェルブリットI ADEN ARABIE/幾原邦彦・永野護
http://www.kadokawa.co.jp/bunko/bk_detail.php?pcd=201109000121
■シェルブリットII ABRAXAS/幾原邦彦・永野護
http://www.kadokawa.co.jp/bunko/bk_detail.php?pcd=201109000123

1999年~2000年にかけて発売されていた単行本の文庫化。当時最も小説を読んでいなかった時期というのもあり未読、文庫版も昨年末に出ていながら手が回らずようやく手を出しました。が、面白いかと言われるとえらい微妙だなあこれ。
SFとしての設定はかなり凝っている方です。各巻末の30頁を超える設定解説、章と章の間には永野護氏による詳細な設定画が掲載され、舞台設定は非常に掴みやすいのです。が、その上で動く人間達が極端にクセ者揃いで読み込みにくく、目的が見えにくい展開が続く上結末は提示されながらもそこに辿り着いていないため、ものすごい不完全燃焼を起こしているように感じられました。 “元は人間だった” 生きた宇宙船とか魅力的な題材だと思うんだけどなー。
生きた宇宙船ジーンライナー、遺伝子改造種ジーンメジャー、旧来種ジーンマイナーをいっぺんに扱おうとしたから良くなかったかも知れない。最初から複数巻構想だったのなら、巻ごとに主人公となる種をきっぱり割るべきだったのかも。と言っても干支一回りも前の作品ですし今頃新展開があるようにも思えないんですが。なぜこのタイミングで文庫化したかもわからん…。

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笹本作品と言えば「モーレツ宇宙海賊」が放映中。2クールなので6月まで続きますが、話数を重ねるごとに評判は良くなって行っているようです。と言ってもアニメが特別出来が良い訳でもなくて、ガッチリ原作なぞってるだけで「いつもの笹本小説を映像で見ている」以上のものでもありませんし、むしろあれでも相当端折ってるんで大丈夫なんだろうかと原作厨的には心配になるのですが、昨今のアニメやラノベしか知らん向きには足場を固めてゆっくり進むタイプはかえって新鮮なのでしょう。
最新刊「ミニスカ宇宙海賊8 紫紺の魔女の船」はめでたく放映中である4月20日に発売だそう。アニメは4巻以降触れられないそうだけど、放映中に原作も進行するといかにもメディアミックスみたいな感じで楽しいですね。コミカライズやiOS/Androidで展開中の「嫁コレ」にも登場するなど、笹本作品としては久々の大きい作品展開になりつつありますな。やー素晴らしい。

今月の読書はもう1冊を予定。読書数を増やし始めた2011年度の軽い総括も次回。

ワーレーワーレーハー(喉をトントンしながら)

3月 18th, 2012 No Comments »

このblogのエントリ上部にある固定リンク欄はプロフィール用なんですが、3つほど頁を追加してみました。内容は見たまんま。あーこういうの好きなのかーという指標にでもなれば。
いやしかしだね、エヴァを水曜どうでしょうで吹き替えてみたシリーズはもっと伸びるべきだと思うんだ。

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■太陽の簒奪者/野尻 抱介
http://www.hayakawa-online.co.jp/product/books/20787.html

子供でも馴染みのあるSFっていうとドラえもんなんかがありますが、あれ子供相手だから通じるのであって「宇宙で出会った宇宙人に地球人類の論理が通じる」のは本来はおかしいんですよ。そもそも地球上だって大陸が違うだけで相当違うのに、星系が異なる規模の話になると例え同じ炭素系であっても価値観・倫理観・行動様式はまず「通じない」と考える方が自然なのであります。「ワーレーワーレーハー」なんてご親切に口上述べる宇宙人がいる可能性の方がずっと低い。

そこら辺をどう捻って設定考え込んでコミュニケーションの突破口をどう見つけるかがファーストコンタクトものの醍醐味で、今作は単に「通じない」から一歩踏み込んでいる所が面白い点ですね。相手は全体でひとつの意識を持ち個が意識を持たないディストピアを確立した種族。我々が細胞レベルで起きている事象を逐一認識していないのと同じで、宇宙の果てからやって来るその種族は人類が何をしようと無関心・機械的。だから日照おかまいなしに水星砕く事が出来るし、直径8千万kmのリングをやがてダイソン球殻に仕立てようとする事さえためらわないし、宇宙船に乗り込んでも全く応じようとしやしない。
終盤で若干こじつけくさい突破口により急展開が起きエピローグへと繋がりますが、ぶっちゃけその辺はどうでもいいんじゃやないかな。主題は野尻作品によくある「宇宙へ果敢に挑戦する人類の試行錯誤」こそにあるので。そこは物凄くしっかりしていますからね。

只のファーストコンタクトものだったら「そんな話も読んだなあ」で終わっていたところを、何年も印象に残っているのはこの設定があったからこそですね。好きな本です。


■沈黙のフライバイ/野尻 抱介
http://www.hayakawa-online.co.jp/product/books/20879.html

「南極点のピアピア動画」発売前の最新作だった短篇集。ここから5年空く事になろうとは当時思いもしてませんでしたなあ。
地球から10光年ほどの所にある赤色矮星系から飛んで来た探査機に人類が接触を試みる表題作は、前作「太陽の簒奪者」と違い失敗に終わります。全部が全部大失敗ではなく収穫はあるんだけど、前作であのような魅せ方をしてくれただけに成立しないまま終わってしまうこちらは、やや残念と言わざるを得ないかも。
残り4篇も宇宙に挑む人類というテーマは前作同様。5篇目の「大風呂敷と蜘蛛の糸」が、次回作へと繋がる一端を見せてくれます。読んでて一番面白いのもこの話です。でも「ピア動」ほど題材が身近ではない。今作から導入を手前側(身近)に引き結末を向こう(未来への可能性的な意味で)に引き伸ばして出来たのが「ピア動」だったのかな、と読み返して思ったのでありました。

次は5年も空かないといいんですけど…どうなるのかなあ。

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「ピア動」読んだので過去作を少しだけ振り返った1週間。
ニコ動ってもう5年になるんですよね。初音ミクは4年半、twitterは5年半(ウチが始めたのは4年前だけど)、日本にiPhoneが来て4年。余りにも日常に馴染みすぎてすっかり忘れてたけど、この5年くらいで国内のネット事情ってすごい変わった。停滞しているように見えて世の中どんどん変わっている。
5年後の未来は、ネット社会は、どうなってるんだろうなあ。

手羽先の骨から始まるバタフライ効果

3月 13th, 2012 No Comments »

実はあまり読書するコンディションでもなかった1週間でした。
体調は別段悪くもなかったけど気分が非常にイマイチで…。

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■妙なる技の乙女たち/小川 一水
http://www.poplar.co.jp/shop/shosai.php?shosekicode=81011510

インドネシアのリンガ島が軌道エレベータ建設により一大宇宙産業都市となった未来、そこで暮らし働く日本人女性を主人公とした短篇集。要はお仕事小説ですな。今回読んだのは再刊行され一篇追加された新版。旧版は未読。
ポプラ文庫からの刊行ということもあり序盤はちっともSFしていません。各篇の主人公の職業も宇宙産業と全然関係ない船乗りや保育士が混じっていたりして、これ本当に一水先生の作品かしらと思ってしまうほど。でも後半になると “気が付いたら” 舞台は宇宙になっていて、やっぱり一水先生の作品でした。
初っ端から小難しい事書くからSFが敬遠されるし薦めづらくもなるんです。普段SF読まない人にSFを薦めるとしたら序盤は全然関係ないくらいが丁度良く、この本は正にそんな一冊。今後相談された時のラインナップのひとつに入れとこう。


■時間のおとしもの/入間 人間
http://mwbunko.com/product/2012/01_01_isbn.html

良く名前を目にするものの、この方の本の購入は初。
話の仕掛けとして時間(より具体的にはループ)ネタを使っているだけで、主軸は巻き込まれた人間模様の短篇集。「どうしてそういう飛び方をしたのだ」という問いに対し「飛べちゃったものは仕方ないじゃないか」みたいな返し方をしてくるのは若干納得行かない部分があるものの、そういう本なのだと途中から割り切る事に。

不満はひとまず脇に置き印象に残った話は「未来を待つ男」かな。極めて私的な事のために一生をかけてまでタイムマシン開発する姿は、どことなくバック・トゥ・ザ・フューチャーを思い起こさせます。どこぞの偉い人は「未来人がタイムマシンに乗ってやって来ないからタイムマシンは存在しないのだ」とか言っているけど、全員が全員人類発展のためと考えてるとも限らんだろ。
途中チラリと出てくる並行世界を研究している学部生も、無駄な描写のようでいい仕込みです。

世界のどこかのいつの時代かに、こんなささやかな恋物語が本当にあったりしないかしら。

何も持ち合わせていない者の、未来を選ぶ物語

3月 3rd, 2012 No Comments »

■マージナル・オペレーション/芝村 裕吏
http://sai-zen-sen.jp/fictions/marginaloperation/
▼“ガンパレ”芝村裕吏氏,初の書き下ろし長編小説「マージナル・オペレーション 01」が刊行。芝村的世界観の原点に迫るロングインタビュー
http://www.4gamer.net/games/000/G000000/20120223059/

芝村氏の名前が知られるようになってから結構長い気がしますが、自身が手がけるオリジナル長編小説は意外にもこれが初になるんですね(原作者としては色々やってらっしゃるようです)。ジャンルこそ氏お得意の戦争モノでありながら、ガンパレなど無名世界観にあったようなファンタジー的要素が今作にはなく「ニートが金に困り報酬に釣られて民間軍事会社に再就職しました」という導入からお話が始まります。なんという消極的な動機。

でもね、読んでいて痛感したんだけど、この消極的判断をウチは笑えない。高卒で社会に出る勇気はなく大学にも行かないので専門選びましたとか、ニートよりマシなのでとりあえずは就職しましただとか。委細が異なるだけでウチも主人公アラタも本質的には同類の人間だなと。今の仕事も経歴9年半になるけれど、採用面接の時「会社がある限り経理は無くなりませんから」と言っている。やる気満々だとは一言も言っていない。落ちたら落ちたでいいやと思ったら採用されたのでここにいる、と感じですからね。まあ仕事である以上ちゃんとやりますけど、ケリつけたらさっさと帰って来るし愛社精神等というものは微塵もない。

そんな消極的な人間だから、選ぶ道が華やかになるはずもありません。この本にキャッキャウフフなんて殆どない。アラタの選択は「これしか選びようがないので」「他を選ぶともっとひどくなるので」ばかり。いちいち「やってやるぜ」等と正義感振りかざしていたらこんなご時世大して見返りもないのに疲れるだけですし。最後の最後で戦場に自らが立ち、守るべき者を全員守る素晴らしい成果を成し遂げるけれど、それも彼にとっては「最も失いたくないのはどれか」を選んだ結果に過ぎないのです。

そういう訳でウチ的には親近感覚えまくりの内容でしたが、もしやる気と労働意欲に満ち溢れ特に現状不満もなかったらこの本はオススメ出来ないかなー。あの芝村氏が! ということで話題性は高いけど、かなり人を選ぶ本だと思います。続刊予定が既にあるそうで、ウチは気に入ったので続きも読む予定ですけども。
そういえばソードアートオンラインも、あれ結局「オンライン世界に閉じ込められたので仕方なく生活を始めた者」の物語なんですよね。最初からオンオフ行ったり来たりのリア充ストーリーだったら多分読んでなかった。自分の性格がこうなので「どうしようもないので動く事にしました」という消極的行動の話が好きなのかも知れないな、と改めて思うなどしたのでありました。

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ところで星海社は文庫サイズでないFICTIONSになると途端に価格が跳ね上がるのはどうにかならんのですかね。別に文庫サイズで星海社文庫とFICTIONSっていうレーベルの分け方しても良いと思うのだけど。
まあ読みたい本であれば値段は関係ないのですけどね。「単行本だと高いので文庫落ち待ち」とかいう買い方はやりたくないです。大事なのは内容であって、価格ではないのですから。